あなたのコトバが あなたをだます/日本語道場2020

「漢字假名まじり文」の日本語をkeywordに私たちの社会の深層をさぐります。

E34/日本人のザンネンな言語環境:連載

承前)……
『英会話の正体』では、さまざまな奇論珍論がタクサン出てまいりますが、言語学の基本を外した激論に反論するのも、いささか虚しく思われるトキがあります。
ただ、この御本が、いまだにネット・ショップで販売されているのを拝見しますと、
論難しておいた方が良いのでは、と思い返し、重くなる氣をムリヤリ奮いおこしてブログ投稿を続けているのでございます。

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前回の拙論に補足するコトがありますので、以下。。。

山本大センセは、英会話の練習法について縷々述べておられるようですが、例示される練習文が、和文から英訳された、かなり込み入った内容の文章であります。中には、関係代名詞や副詞構文を連ねた、日常の口語会話では、とうていしゃべらないような例文まで出てまいります。テレビのニュースで、インタビューされたコメンテーターがしゃべるような、講演慣れした専門家が、あらかじめ用意して発話するような長い文章を、例示なさっているのです。
それは、アメリカの大統領の演説にあるような、聞きとりやすい文章でもありません。
第17章「英会話 対 英会話学習」p.91 にある
「次の日本語を英語で表現してみましょう。」から、一つだけ、
3. " Is it true that you can't speak English expression that you can't understand when you hear them spoken? "

以上の文は、御本の中でもかなり長い方で、ほかはもっと短い簡単な文章が提示されています。念のため。
山本センセの会話文は、結局、和文英訳の列挙に終始しています。
当然でしょう。その第1章で述べられていたことから、聴いているだけの英会話教室で行われている練習法を改めるために、
日本人がしゃべる日本語文を、まず提示するしかないのです。
さらに、別の箇所(p.122)で、関係代名詞を省略した複文を例示し、それが「普通の大人の会話で頻繁に使われている」と力説なさっていらっしゃいます。
同時通訳以上の瞬間的作文能力を、会話能の究極目標に置いていらっしゃるようにお見受けいたしました。それも、アタマの中で、まず日本語作文をしてから、英訳しようという段取りです。
でも、さすがにソレがムリなことは、すでに実証済みですので、
「長いセンテンスをモノにするのには、意識的な口頭練習が必要だ」と叫んでおられます。(同書、p.129)

○どうして、そうなるのでしょうか?
一つには、センセの御経歴に、その淵源があるのではないか、と愚考するのであります。
御本の「あとがき」の次頁に、センセの略歴が掲げられて、

●法政大学文学部英文学科卒
カンサス州立大学留学
翻訳会社勤務、翻訳業に従事、
国会議員秘書

とあります。
ただし、ワタクシが買った御本は、2008年1月の第2刷。
現在も国会議員の秘書をなさっているかどうかは存じ上げません。
○大学の英文学科を終え、翻訳業がご専門なのですね。
そうなんです。
英文和訳、和文英訳がお仕事なんです。
その翻訳の専門家が、英会話の御本を書いていらっしゃったのです。
これじゃ、仕方ありませんよね。
○「英会話」と一括りで呼んでますが、ヒトそれぞれ、いろんなレベルの会話能を目指していると思うのです。山本センセの英会話レベルが、どのへんにあるのか、
かなり高いところを目標となさっていらっしゃるようですね。
で、
第4章「会話とはセンテンスのキャッチボールだ!」にまいります。
このタイトルに見られますとおり、
会話を「センテンスのキャッチボールだ」とおっしゃってます。
それは、英語で話している現場での現象面の描写としては正しいでしょう。
ただ、センテンスというのがチョイ引っかかります。
日本人の英会話でのつまずきの最大原因は、
言いたいことの日本語文を、会話の現場で素早く英語の文章にできない、発話できない、という脳内現象のクセにあります。
瞬時の和文英訳!
そんなことは、完全に不可能なコトは、みなさん経験済みでいらっしゃいます。
瞬時の和文英訳は、方法論としてはマチガイ(不可能)なのですから、別の正しい、本来の方法をとらなくてはなりません。
それが、
「Think in English (英語で考えろ)」
であります。山本大センセが全面否定なさっておられる練習法でございます。

山本大センセは、無学文盲の人に接したことがない人とお見受けいたします。
第3章で書いておられました「文字で記された文章が理解されて、はじめてハナシの意味が分かる」という、コトバを教える専門家としては、前代未聞のモンスター・センセでいらっしゃいます。
19世紀近代社会で、初等教育が普及するまで、日米欧大部分の一般庶民は文盲でありました。
山本大センセは、ゴ存じない。
この21世紀の、情報革命の現代にあっても、開発途上国で非識字率が40パーセント以上という現実も、ゴ存じない。
「文字で記された文章が理解されて、はじめてハナシの意味が分かる」と言明されている、その意味するところのウラを返せば、
○文盲の人々は、口頭の会話で、意味のあるやり取りが不可能だ、ということになります。
もちろん、そんなことはありませんから、
山本センセの御説の方が、マチガイでありますが、
この簡単な事実を、センセはチラリともお考えになった形跡が見えません。
中国の漢字が表意文字だと聞かされているわたくしども日本人ですが、
では、漢字(意味を表示する文字・表意文字)を読めない中国人は、意味のある会話ができないのか?
逆に言えば、漢語で話を通じさせてきた漢民族は、太古の昔から文盲はいなかったコトになりましょう。
なぜ「文字は発音記号であり、文字で記された文章が、コトバの音標記述だ」と知らないのか?
言葉を扱う専門家としては、致命的無知ではあります。