あなたのコトバが あなたをだます/日本語道場2020

「漢字假名まじり文」の日本語をkeywordに私たちの社会の深層をさぐります。

E37/ハナシもどって、日本人のザンネンな言語環境:連載

○「英会話の正体」の続き。
p.44 /8章
「英語は本当に速いのか?」から、ごきげんをうかがいます。
ここでも、山本センセの独断珍説をタップリあじわうコトができます。本文9行目
いきなり、ゴチック文字で
『筆者は断言します!(改行) 英語と日本語のスピードは同じである‼』
と、きましたよ?!
えらく興奮なさってますが、どうなさったのでしょうか?
日本人にとって、ネイティブの英語は早く感じる、という一般的印象を、センセ独創の実例(?)で否定なさっているのです。
この「日本人には速く感じられる」のが、発話内容(文)が分からないからだ、という山本センセのトッカカリ解説はわかります。
とうぜんです。
単語熟語を聴きとれない場合は、音声の連なりを追いかけるのにセイイッパイで「そのスペルがどうなのか、日本語の意味がナニなのか」さえ分かりません。
山本センセの問題発言はこのあとからです。

また、ゴチック文字で、
「英語と日本語の絶対的なスピードは同じです!」と、強調なさってます。
○ハツミミです。山本センセの新説が、ここでモひとつ加わりました。
その根拠証拠をあかすべく、
「実例をお見せしましょう」と、p.45とp.46で、5本の英文とその和訳文に解説をつけながら、列挙なさっています。
全部あげるのもカッタルイので、2本だけ引いてみます。

"If I had had time, I would have Gone."(9ワード)「時間があったら、行ったんだけどね。」

"John sent me an e-mail saying that he'll be 30 minutes late for the
three-o'clock meeting."(17ワード)
「ジョーンがメールで、3時の会議に30分遅れると言ってきました。」

○上の二つの例文で、甲の方の英文の読みが1.2~1.5秒、和文の方が1秒前後、
と、どんな計測法をとったのか明示せぬまま、実例?となさいます。乙の方でも、英文3.5秒前後、和文3秒前後と、和文が早い、とおっしゃいます。
多くのヒトの読みあげ発音例を採取するのではなく、ゴ自分一人で読みあげたのを、うごかぬ証拠としてあげておられるようです。
▲んなモノ、個人差があるから、五つ六つの例文をあげてみても、なにも証明できませんて。
だいたい、それら例文の日本語訳にしてからが、もっとみじかくできますから、読み上げスピードを和英両文でくらべても、詮ないコトでしょうに……、やれやれ。
★「時間があったら、行ったんだけどね」を
「時間あったら、行ったけどな」としても、ほとんど内容に異同ありません。
「ジョーンがメールで、3時の会議に30分遅れると言ってきました。」を
「ジョンが、3時の会議に30分遅れるとメールしてきてます。」ならさらに速く短くなります。

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☆ワタクシ、大学時代にはかなりあそびホウケてまして、同じキャンパスにあった演劇学科にもモグリこんだりしてましたの。
で、そこからの経験学習をヒトクサリもうしますと、

○演劇界で、古今東西もっともよく上演される戯曲作家は、シェークスピアですが、
坪内逍遥にはじまって、福田恆存から小田島雄志まで、さまざまな文芸家によって翻訳されてますが、すべての上演作品に共通しているコトがあります。
それは、原語(英語)作品よりも日本語訳戯曲の方が、上演時間が2割ほど長い、というコトであります。
ハムレット』はいうにおよばず、『ロミオとジュリエット』も『オセロ』『リヤ王』すべて、そうであります。英語戯曲の上演時間が2時間なら、その和訳戯曲の上演時間は2時間半。3時間上演の英語作品なら、和訳だと4時間にものびてしまいます。
○おそらく、山本センセは、英語翻訳のセンモンカでいらっしゃるけど、英米の戯曲にはまったく興味をおもちにならないのでしょう。
☆英語の映画で、日本語字幕(caption)をみて、疑問に思ったコトもないのでしょう。画面から流れてくる英語のセリフの語数にくらべて、字幕の「漢字カナまじり」の文のえらくみじかいコト!
もし、セリフ原文をそのまま和訳していたら、セリフ発声の時間内に字幕文を読みきるコトができないのです。
山本センセは翻訳家ですが、映画字幕用の翻訳はなさったコトがないのでしょう。
○演劇・映画にかぎらず、
英文を和訳したその文章を読みあげると、英語原文を読み上げる時間より長くなるのです。まれに例外がありますが、あるまとまった分量の文章を朗読するトキ、日本語文は、英語原文よりも読み上げに時間がかかるのが、業界の常識です。
○なぜ、そうなるのか??
大学の一般教養として英語をかじったコトのあるモノなら、
知っているモノは知っている。わすれたモノは知るヨシもない。
○英語と日本語のシラブルのモンダイなのであります。山本センセはゴゾンジなかったようです。
シラブル:"syllable"とつづります。音節をあらわすツヅリ文字のコトであります。
この「シラブル」を例にとりますと、
原語のツヅリ"syllable"は2。日本語の「シラブル」は4、と、英語の倍になります。
○先の例文・乙の日本語を、シラブルがはっきりわかるように、ローマ字書きいたしますと、
「Jon ga meeru de, san-ji no kaigi ni san-juppun okureru to itte mashita." となるのです。26シラブルあります。英文の方は、23です。この例文では、わずか10パーセントの差ですが、
先ほどからのべておりますとおり、英文とその和訳文とをくらべた場合、訳文の方が、発音よみあげに時間がおおくかかる、というコトでした。
○それを、山本センセは、
なにをカンチガイなさったのか、わざわざ一章を割いて、ヤブヘビのボケツ掘り、
トンデモない仮説を開陳披露なさったのでありました。
あとのおハナシが、ますますタノシミになります。