あなたのコトバが あなたをだます/日本語道場2020

「漢字假名まじり文」の日本語をkeywordに私たちの社会の深層をさぐります。

E58/EIKAIWA ; Japanese のザンネンな言語環境:serial comments

36章は「音記せよ!」であります。
「音記」とは山本センセの造語で、
「音読して暗記しなさい」という意味です。
English の達人である國弘正雄先生がスイショウなさっている
「只管朗読」《シカンロウドク。音読を繰り返すと、語感とともに文章そのものが暗記できる》
と同工異曲の熟語です。
「只管朗読」は國弘正雄先生の専売特許みたいなものですから、
山本センセは「音記」とするしかないのですが、
それほど大層な概念ではありません。
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◯この章で重要なポイントは、
山本センセが『英会話の正体』を書くに至った、センセ御自身の、
英語にまつわる艱難辛苦の経験が披露されておるのであります。

ネイティブとの対話で、スピーキングが10分も持たないのに不満を覚えた若かりし山本クンは、
30代前半のころ一念発起、英語の小説「ペリー・メイスンの法廷物」を3年あまり「音記」なさったそうです。
この小説は、シリーズ物でもあったのですが、
TV映画になって、日本でも放送されています。

ま、法廷物となると、裁判シーンでは、込み入った状況を陳述しつつ、
論理を駆使して、容疑者のウソを暴いたり、アリバイを崩したり、そのセリフたるや、
日本語でもケッコウ込み入った長いものになりますな。
こんな小説を音記したというのですから、
ハッキリ言って「オタク」ですね。
発音の方はドウしたかは述べられていませんけど……。
その情熱は、センセの告白によれば、
desireや driving forceが強かったということだとか。

◯そして、こうまでした理由はモチロン「『必要性』ではない」とおっしゃるのでした。
ゴチックで「必要性では物事を達成することはできません。」
とのこと。
ここです。
山本センセが「必要性」では英語が身につけられないと、
頑強に主張なさっていたユエン・コダワリの根拠が、ここにあったのです。

それゆえ、『英会話の正体』の想定読者は、極めて少のうございます。
『日本人の9割に英語はいらない』ですし、
昇進にあたってはTOEIC 800が「必要」な中間管理職のオトーサンも、山本センセにいわせれば
「見込みなし」となるわけです。

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◯ 心理学と応用言語学を専門(Ph.D.)とされるドミニク・チータムさんは、
かつてNHKのTVで英語講座のアシスタントをなさいましたが、
ちくま新書から
『リチューニング 英語習得法』
という本を出されてます。
その第5章「子供の言語習得から学べるもの」で
成人の外国語習得における深層心理について書いておられます。
〈p.110.〉
小見出し
「 † 脳は不必要なことは学ばない」
とあって、大人が英語を身につけたいと希望するなら、
「英語を学ぶ価値がある」と必要性を感じる
各人なりの強烈な経験がいる、ということなのですね。

「音記」そのものは「只管朗読」と同じですが、
法廷物の小説を朗読する「必要」はありません。
チータムさんが、日本語を身につけるためにやったのは、子供向けの、
ただし、大人の興味を持続させられるような、
優良な物語(童話)を繰り返し読んだそうです。

この章では、山本センセの涙ぐましい努力の一端を垣間見て、
『英会話の正体』という悲しくも哀れな小果実のネタに触れることができました。 畢竟、
山本センセのスローガン
「必要性では英語であれ何であれ達成することはできない」は、
英語を必要とする者に、何の助けにもならないアドバイスでありました。

第37章「独り言の表現を集めよ!」
センセ独特のイイグサで、
日本語で言うセリフを、英語でも言えるようになれ!
とおっしゃってます。
日本語でいっても、
英語では言わない・言えない言い回しは、
日本語だけの表現として、放っておくしかありません。

第38章「単語力を強化せよ!」
ま、これは、当たり前でしょうな、
英語をやってる本人が「必要だ」と思うレベルでしか
ありませんが……。

第39章「練習の回数の概念」
ここでは、
「一日10本のセンテンスを最低15回練習しろ」とおっしゃいます。
ま、ムチャなハナシなのか、ゆるいハナシなのかは、
現実が証明します。

ペラペラの海外帰国子女が、帰国後半年もすると、
英語がおぼつかなくなる。
あわてて英会話教室に毎週2回かようようになっても、もはや手遅れ。
スッカリ定着してしまった日本語を払いのけることができません。

日本にいて、帰国子女よりも少ない練習時間をこなしながら、
普通の日本人が、どうして英語能を増強していけるのでしょうか?
どんなマジックがあるというのでしょうか?

そんなマジックがあれば、巨万の富を築くことができるでしょう。
練習の回数、というよりも、英語に接している時間が、
英語能の保持に影響します。
一日の間、英語と日本語のどちらに多く接しているか、
それが、言語習得能に関わってくるのです。
さてさて、このあと
最後の40章にたどりつきますが、これは、次回のブログでゴキゲンをうかがいましょう。
こうゴキタイ!!!